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浦和地方裁判所 昭和63年(わ)585号 決定

主文

本件請求を却下する。

理由

本件請求(鑑定請求の趣旨と認める。)は、要するに、取調べ状況に関する被告人と取調官の各供述のいずれが真実であるかを、「うそ発見器」を使用した検査(ポリグラフ検査)によって判定して欲しいというのである。

そこで、検討するのに、「うそ発見器」による検査には、通常、(1)「緊張最高点質問法」及び(2)「対照質問法」という二種類の方法があるとされているが、まず(2)については、そもそも検査結果の信頼性に欠け、裁判の基礎資料にする余地はないと考えられている。他方、(1)の方法による検査結果には、ある程度の信頼性があるとされているが、右方法による検査は、特定の事実に関する被検査者の認識の有無を判定する目的で考案されたものであるため、これを正確に行うためには、右事実が体験者でしか知り得ない性質のものであることを要すると共に、被検査者において、問題とされる認識の時点以外に右事実を知り得る機会がなかったと認められることが不可欠の前提であるとされている。ところで、本件においては、「うそ発見器」による検査により、取調べ状況に関する被告人及び取調官の各供述のいずれが真実であるかの判定が求められているのであるが、問題の取調べ状況に関する被告人及び取調官の各供述の内容は、従前の公判廷における証拠調べの結果、すべて被告人及び取調官の知悉するところとなっていると認められるから、両者の供述の真否を判定するための適当な質問を想定することができない。従って、右のような状況のもとで「うそ発見器」による検査を実施してみても、裁判の基礎資料たり得る程度の信頼性を備えた結果の得られる見込みが事実上存在しないというべきであって、これを実施することには、何らの意味がないと認められる。

よって、本件鑑定請求は、これを行うことが相当でないものとして、これを却下することとする。

(裁判長裁判官 木谷明 裁判官 木村博貴 水野智幸)

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